To: You From: Hiroshi Yuki Date: Mon Apr 16 22:00:00 2001 Subject: [Letter] ふう。 結城です。 一日の仕事が終わって、くたびれました。 あなたは、いかがお過ごしですか。 今日は、翻訳のお仕事をメインにやりました。 第2章の初稿を整理して編集部にメールで送りました。 この後、この初稿に対して編集部のチェックが入ります。 もとのファイルに疑問点や改善案などを盛り込まれたメールが 編集部から返送されてきます。 今度は私がそのチェックに対する返信を作成して (その章の)原稿はあらあらできあがりです。 時間をたくさんかければよりよいものになるのですが、 現実の時間は限られているので、どこでOKとするかは 難しい問題です。 翻訳の話をします。 もともと、私は専門の翻訳者ではないし、英語も学校で勉強した程度です。 でも、プログラミング言語の書籍を執筆したときの編集長の紹介で、 プログラミング言語関係の翻訳のお仕事をすることになりました。 書き下ろしの本はこれまでに何冊か書いているので様子はわかりますが、 翻訳ははじめての経験なので、いろいろ手探り状態です (他の人からアドバイスを受けたりもしています)。 私は次のようにして翻訳を進めています。 まず、原書のテキストファイルを編集部からもらいます。 それを見ながら段落ごとに翻訳をします。 英語で書かれた段落の下に、日本語の段落を書く、 という形式で、英語→日本語、英語→日本語という しましま模様になります。 このとき、わからない英単語はオンラインの辞書で ささっと調べたりすることもあります。 この時点では、あまり日本語の表現にはこだわりません。 ただ、英語の意味をできるだけ直接的に日本語に置き換えます。 英語を日本語に直すときの大きな問題は「語順」ですが、 あまり後ろから翻訳することはせず、頭からがりがり訳します。 そうやって一区切り翻訳が済むと、 今度は日本語だけを読みながら、日本語として「しっくりくる」形に直します。 文芸作品ですと、これをやりすぎて「自分流」にしてはいけないのでしょうけれど、 私が翻訳しているのは技術書ですから、ある程度わりきって、 思い切り構文を変えてしまうこともあります。 このあたりの按配がまだよくわかっていないところです (でも、楽しいところでもあります)。 そうやって一区切り地ならしが済むと、 チェックのために英文と対比しながらまた読みます。 「読む」という作業は「書く」こと以上に大切な作業です。 これは翻訳に限りません。 よい文章を書く秘訣は、書いた後「何度も何度も読む」ことです。 できれば、読むたびごとに「別の帽子」をかぶるのがよい。 ・いじわるな読者の帽子 ・はやとちりの読者の帽子 ・飽きっぽい読者の帽子 ・技術的なことに詳しい読者の帽子 などなど。 いろんな読者の帽子をかぶって(読者の気持ちになって) 自分の文章を読み返すのは、文章をブラッシュアップするときに とても大切なプロセスなのです。 話がそれました。 以上のようにしてできたファイルには、 何点か疑問点が残る場合もあります。 それは自分で調べたり、編集の人に調べてもらったりします。 そのために疑問点がはっきりわかるように指示したうえで、 メールとして編集部に送ります。 翻訳というのはとても楽しい作業だと感じます。 編み物にたとえます。 自分の書き下ろしの本を書くというのは、 自分でデザインを行って自由に編み物をするようなものです。 でも、翻訳というのは、 編み物の本を見て、そのパターンにしたがって編み物をするようなものです。 できあがりの大枠はすでにわかっている。 でも、どういう糸を選び、どういう仕上げにするかは編み手に委ねられている。 端のかがり方や、編み目の細かさなどは編み手の腕の見せ所なのかな、 と思っています。 翻訳者が鼻につくような文章はよくないが、 「翻訳でござい」という感じのぎこちなさは避けたい。 自然で読みやすい日本語でありながら、 きちんと原文の意味と香りを伝えている…。 そんな翻訳をやってみたいと思っています。 今年の1月に『Perl言語プログラミングレッスン』入門編が出せて、 また6月に『Java言語で学ぶデザインパターン入門』が出版できそうです。 感謝です。 現在のメインの仕事はこの翻訳のお仕事。 さてどうなりますでしょうか。 いつも、私の勝手なおしゃべりにつきあってくださって ありがとうございます。聞いてもらえるってうれしいことですね。 それでは、また。 おやすみなさい。 ================================================ 結城浩 [Letter] の登録ユーザにお届けしています。 登録や解除は http://www.hyuki.com/letter/ から。 ================================================