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HowCanANewProgrammerImpressTheSoftwareEngineer - ソフトウェアエンジニアのボスに気に入られるにはどうしたらいいですか?

ソフトウェアエンジニアのボスに気に入られるにはどうしたらいいですか?



僕、アシュトンの話はしましたっけ?

アシュトンはとうもころしで育ったような朴訥な子でした。 両親はというと、母親の側がミシガンの外れのに 15 エーカーの畑を相続するまで まともに働きもしないようなヒッピー。 家族でその土地に越してきて、乳をしぼる山羊を二頭買って、 オーガニックな山羊チーズをアン・アーバーの直売所で都会の連中に売ろう、 なんてじたばたしていました。

十歳の頃のアシュトンは毎朝四時に起き、その残念な山羊から乳を絞りましてね。 しんどいもんです。アシュトンは学校が好きでした。 山羊の尻にずっぽり埋もれなくて済みますから。 高校の間はずっと真面目に勉強してましたよ。 いいとこの大学から奨学金を貰い、農場から抜け出す切符代にする気でした。 大学に行ってみると、農場と比べればえらくちょろい場所でした。 なぜ同級生が全 A の成績をとれないのかわかりやしません。 専攻はソフトウェア工学。朝四時に起きなければ勤まらないエンジニアはまずいない、 そんな目論見でした。

業界のことを、ほんとに何もしらないままアシュトンは卒業して、 だからジョブフェアなんかに行ったのです。 三つの職に申し込み、三つとも合格したので、いちばん払いのいい職場にきめました。 32,000 ドルなんてふざけた年俸の、ミシガン州は南にある大きな家具の会社でした。 キュービクルを作って、世界中の会社に売っていました。 農場にだけはどうしても戻りたくない、 なんとかしてボスに気に入られようと、アシュトンは心に決めます。 彼のボスはチャーリー・シャーモンといいました。

「そいつは簡単じゃないと思うぜ」同じキュービクルのジェルがいいました。 「ここじゃ彼女はちょっとした伝説なんだ。」

「どういうこと?」アシュトンは尋ねます。

「ああ、おまえ何年か前の、Y2K の大騒ぎを覚えてるか?」

アシュトンはまだそんな年じゃなかったんでしょうね。「Y2Kってなに?」

「あれだよ、誰も 1960 年代に書かれた古いプログラムが 2000 年になっても動いてるなんて 思いもしなかったもんだから、そいつらは西暦に二桁しか使わなかったんだ。 1999 を保存するかわりに 99 ってやったわけ。時は流れて 2000 年 1 月 1 日。 コンピュータのシステムがぶっこわれた。二桁のところに 100 を書こうとしたもんだから。」

「ほんとに?言い伝えみたいなもんだと思ってたよ。」アシュトンはいいました。

「世界中どこをみても、よその会社では何も起きやしなかった。」 ジェフはいいました。「何億ドルもつっこんでコードを一行一行ぜんぶチェックしたんだ。 でもこの会社じゃ、あいつらケチだからさ、何もテストしなかったんだ。」

「まったくなにも?」

「まったく。テスト・ゼロ。なーんにもしなかった。 そしていわんこっちゃない、一月二日にぞろぞろ会社に来てみたら、何ひとつ動きやしなかった。 生産スケジュールは刷れない。工場の組立ラインなんて半分くらい動きもしない。 どんなシフトで働けばいいのかだってわかりゃあしなかった。工場は文字通りぴたっと止まっちまった。」

「また冗談を...」アシュトンはいいました。

「本当だっての。工場はぴたっと静まり返っていた。 そこに、ゴゴゴゴゴ、チャーリーの登場だよ。その頃のチャーリーはまだ新入りだった。 それまであの人は Microsoft、いや NASA だったか、そのへんに勤めていた。 なぜあの人みたいのがこんな場末のちっぽけな会社にいるのか誰にもわからなかった。 でもあの人はやってきて椅子に座り、コードを書き始めた。書いて、書いて、書きまくった。」

「チャーリーは 9 日間、昼も夜もぶっつづけてコードを書いた。 そのあいだは寝てなかったし、何も食べなかったし、トイレも行ってないなんて話もあった。」 あの人は次々とシステムをとっかえひっかえして、そいつらを文字通りぜんぶ直した。 まじかよってかんじだったぜ。直そうとしてたシステムが COBOL だったのには参った。 工場はとまっている、だからチャーリーはアン・アーバーの大学に人をやって COBOL のマニュアルをもってこさせた。工場の連中までそのあたりをうろつきながら震えてた。 なにしろ暖房にまで Y2K のバグがあったんだ。 チャーリーはコーヒーを一杯、また一杯とがぶがぶ飲み干してはキーを叩いた。 鬼女ってかんじだったな。

「うわ。あのひとトイレにもいかなかったの?」

「まあ、ちょっとはおおげさなところはあるかもな。 でも 9 日間 24 時間ぶっつづけで働いたのはほんとだぜ。 で、とにかく、1 月 11 日。その日のシフトがあと 5 分で始まるってときに、 あの人はキュービクルから出てきた。ラインプリンタのところまで歩いていって、 ボタンをおすと、じゃじゃーん! 生産スケジュールがでてきた。チームスケジュールもだ。 ぜんぶ完璧だった。完璧なフォーマットだった。「99」だったところに「2000」を入れるんで フォントがちょっと小さくなってた。しかもだ、 あの人は優先度最適化システムまで書いて 9 日分とまってた生産を追い付かせ、 おかげでたいして客を怒らせずにすんだ。組み立て工場は何事もなかったみたいに動きだした。 暖房も動きだした。「19100」じゃなくて「2000」と刷られた領収書が出てきた。 そしてそれ以来、誰も一つのバグもみつけてない。」

「ちょ、ちょっと!」アシュトンは言いました。「バグのないコードなんて誰にも書けないよ」

「あの人は書いたのさ。俺はこの目で見たからね。 工場の初日なんて歪みナシのキュービクルが二日分でてきた。」

アシュトンには衝撃です。「それは大仕事だねえ。どうすればその域まで行けるのかな。」

「おまえ、そりゃ無理だろ。誰にもできやしないさ」 そうジェフはいって、自分の端末に戻りました。 レジュームしたコンピュータではオンラインのフレーム合戦が待っています。 スポックとバットマン、もし戦ったらどっちが勝つのか。 かれこれ 4 ヶ月もその話題です。

アシュトンは諦めるような男じゃありません。 自分もいつか語り継がれるような仕事をすると誓いました。 けれど実際のところ、もう二度と Y2K なんて起こりやしない。 そして誰も、ミシガンのそのあたりでは誰も、 良いプログラミングなんてのは気にもかけなかったのです。

これっぽっちもね。

それから二年、アシュトンは仕事に打ち込みました。 気持が奮い立ち、いつか皆とは違うことを、なにかすごい、 目覚ましい活躍をしたい。そう思わずにはおれなかったのです。

一方の同僚たちはというと、ネットを眺めたり、友達に IM したり、 何時間もソリティアで遊んだりでした。

キュービクル中のジェフ、彼の仕事はひとつだけなんです。 ある週に仕事で怪我をした工員の人数を記録する Excel の表を書き足すこと。 これまで怪我をした人はいませんでした。週に一度、 ジェフは表を開いて、ページの一番下まで行って、日付とゼロを入力して、保存ボタンを押して、 仕事はそれでおわりです。

アシュトンはジェフの仕事を自動化するマクロまで書きました。 でも、誰かに咎められくなかったジェフはマクロ化を断りました。 それ以来、二人は口をきかない仲。きまずいもんでした。

さて、キュービクル社勤め二周年のある朝、 アシュトンは出勤の車を走らせながらある事に気がつきました。

そういえば、自分の書いたコードは一行も動かされたことがないな。

この二年にやった仕事は、なにひとつ、世の中に影響を与えていない。

ミシガンの街の気温は 24 度で、灰色で、嫌な匂いがして、 彼のホンダはポンコツで、街に彼の友達はいなくて、 あげくの果てに彼のやることは何一つ意味がなかったのです。

リンカーン通りを進むと、家具の会社が左に見えます。 敷地の前には三つの旗がひらめいていました。 アメリカの国旗、偉大なるミシンガン州の旗、会社の赤白地にロゴが入った旗。 車は左折を待つ長い列にたどりつきました。 混雑時はいつも信号が四、五回変わるまで待たされます。 左折するまでの時間はたっぷりあったので、アシュンは記憶を遡りました。 自分の書いたコードが、誰かに使われたことはあったかな、と。

ありませんでした。アシュトンはたまらず涙をこらえました。

そして彼は左折するのをやめ、道をまっすぐ進みました。それは偶然みたいなもんでした。 左折ライトは直進しない意味だってのを、彼は忘れてましたから。

それからリンカーン通りを進み、ジェラルドフォード・フリーウェイに入ると、 彼はそのままグランドラピッズの空港まで車を走らせました。 そしてターミナル前にポンコツのホンダを停めて、その場所では撤去されるのを百も承知で停めて、 ドアを閉めもしないで車から離れ、フロンティア航空のカウンタに向かい、次のサンフランシスコ行きの切符を買って、 飛行機の出発まではあと二十分で、その飛行機に彼は乗り込んで、二度とミシガンには戻りませんでした。