出発点は、頭の中にあるのではない

結城浩

2001年9月17日

本を書くとき、最初に、 本全体の構成(章立て)を考え、さらに各章の構成(節として立てる項目など)を考えるのだが、 各章の構成は、実際に章を書いてみないとしっくりこないことがある。 そしてまた、本全体の感じは、本を書いてみないとわからない。 でも、本を書くためには章立てが決まっていなければ書けないし、 章を書くためには節が…とやっていたら、いつまでたっても書けないわけだ。

ではどうするかというと、 とりあえず、何か書いてみるのである。 第一次近似としての目次や各章の構成などを、 まあとりあえず書いてみる。そしてその段階で、 じいっと書いたものを見つめて、ちょこちょこ書き直す。 そしておもむろに適当な章を書いてみたり、 練習問題を書いてみたり、前書きを書いてみたり、 図を書いてみたり。 そうやってしばらくして行き詰まったら、 また目次をじいっと見て…。 そんなことを繰り返しているうちに、 ぼんやりと、本全体の姿が浮かび上がってくる(ことを期待しよう)。

昔、ライティングの授業で学んだことを思い出す。 先生はこう言った。

「まず、封筒を取り出します。 別に封筒でなくてもいいのですが、 要するに手元にある紙をつかみます。 そしてそこに、自分が考えていること、自分が書きたい内容をどんどん書きます。 しばらく書くと、書けなくなります。 そうしたら紙をもう一度眺めます。 …そこが、あなたの出発点です」

いま、あの先生の言葉を思い出して (といっても英語だったから言葉そのものは覚えていないけど)、 あの先生はなかなか正しいことを教えてくださったのだなあと思う。

出発点は、頭の中にあるのではない。

出発点は、手元の紙に書かれた言葉の上にあるのだ。