直線・正方形・円についての長男との対話

結城浩

長男「お父さん、何か方程式の問題だして。」

私「方程式じゃないけれど、式と図形の話をしよう。たとえば、y=2xという式を考える。」

長男「2xっていうのは2・かける・エックスだよね。」

私「そのとおり。いまxとyの間にはy=2xという関係があるとする。xが1のとき、yはいくらだろう。」

長男「ええと、2だね。」

私「そうだね。じゃあxが0ならyは?」

長男「2・かける・ゼロだから、yは0だね。」

私「そのとおり。じゃあ、ここに紙があるから、点をプロットしてみよう。(水平線を引いて)これがx軸。(垂直線を引いて)これがy軸としよう。両方が交わったところが原点(0, 0)だ。この点は、xが0, yが0という二つの数の組に対応している。じゃあ、この点は(指差す)。」

長男「xとyでどっちを先に言うの?」

私「xだよ。」

長男「じゃあ、この点は(1, 0)だね。xが1, yが0。」

私「そうだね。じゃあこの点は?」

長男「それは(0, 1)だ。yが1なんだね。」

私「そのとおり。じゃあこれは?」

長男「その点は(1, 1)だ。簡単だよ。」

私「ふうむ。じゃあ、xとyがy=2xの関係を満たすときの点をいくつかプロットしてみよう。たとえば(0, 0)だよね…。」

長男「あっ、言わないで!自分でやる!(0, 0)と…(といいながら黒丸を書く)、(1, 2)と…、(2, 4)と…。」

私「うんうん、そういう感じだ。xが-1だったらどうだろう。」

長男「マイナス? (-1, -2)だよね。…ここか。」

私「そうそう。ほら、いまの点を見てみると、右上がりの直線になっているね。」

長男「うん、うん。なってる。」

私「あなたは整数値だけをプロットしたけれど、分数や小数であってもy=2xの関係を満たす(x, y)の組に対応する点は、この右上がりの直線の上にある。」

長男「ふうん。」

私「やってみようか。xが1/2のとき、yは?」

長男「yは1だね。ふうん。」

私「だから、この直線を「y=2xの直線」と呼んでもいいだろう。」

長男「なるほど。」

私「じゃあ、ここでクイズだよ。「y=xの直線」はどういう直線かな。」

長男「y=2xじゃなくてy=xなんだね。(0, 0), (1, 1), (2, 2)っていう点を通る直線になるね。」

私「その通りだ。では「x=1の直線」というのはどうだろう。」

長男「この間お風呂のタイルでやったよね。垂直なこういう線。」

私「そうそう。じゃあ「y=1の直線」は?」

長男「こういう水平線だね。」

私「その通り。この平面の上にある点は二つの数のペア(x, y)であらわすことができる。図形は点の集合だから、二つの数のペアの集合を使って図形を現すことができる。二つの数の関係を式で表すことができれば、図形を式で表したことになる。」

長男「ふうん。」

私「実はこの間、5角形の星型ってコンピュータでどうやって描くのかな、って考えていたんだ。」

長男「星型?簡単じゃん。」

私「ええっ!簡単?」

長男「だって、まず5角形を描いて、点を結べばいいでしょう?」

私「うーん、それはそうなんだけれど、じゃあ5角形をどう描くか、っていう問題を解かなくちゃいけないね。」

長男「どうするの?どうするの?」

私「5角形はちょっと難しいから、正方形を描いてみようか。」

長男「うん、いいよ。」

私「中心が原点で、一辺の長さが2になるような正方形(辺は軸に並行でよいよ)を描いてみよう。どうすればいいだろう。」

長男「こうやってこうやって、こういう線を描けばいいでしょ?簡単じゃん。」

私「うん。そうなんだけど、それを(x, y)の関係であらわす、っていうのがポイントなんだ。コンピュータの画面は小さな点の集まりでできているでしょ? xとyの組を一つ作って「ここに点を打ちなさい」ってコンピュータに命令すれば点が1つ描ける。たくさんの(x, y)を与えればコンピュータで図形が描ける。」

長男「うーん…」

私「じゃあ、ヒント。正方形は4つの辺でできているよね。そのそれぞれの…」

長男「あっ、もう言わないで言わないで!わかった。たとえばこの右側の辺はx=1の直線だよ!」

私「そうそう。でも正方形の4つの辺は直線ではなくって線分だ。どうする?」

長男「そうか。直線だと、ずーっと伸びちゃうんだ。うーん。わかんない。」

私「じゃあ、ヒント。x=1の直線の上ではxはいつも1だ。じゃあ、正方形の右側の辺では、yの値は何だろう。」

長男「yの値は…1かな?」

私「うん、(1, 1)は正方形の右上の頂点になるね。それで一点。」

長男「あ、わかった!yの値は-1から1までだ。」

私「ふうむ。「-1から」の「から」ってどういう意味だろう。含む?」

長男「以上!以上! -1以上、1以下だね。」

私「その通り。正方形の右の辺は、xが1、yが-1以上1以下の範囲にある点の集合だ。-1より大きいってやっちゃうと角が白丸になっちゃう。次は上の辺に行こうか。」

長男「y=1の直線で、yは…」

私「y?」

長男「ちがう。xは-1から…」

私「-1から?」

長男「以上! xは-1以上、1以下の範囲。」

私「その通り。xが-1以上1以下の範囲でyが1のとき、上の辺になる。左はどうかな。」

長男「x=-1の直線で、yは-1から…」

私「から?」

長男「…以上。yは-1以上1以下。」

私「うん。OK。下の辺は?」

長男「y=-1の直線で、xは-1以上、1以下の範囲。」

私「その通りだ。これで4つの辺をxとyの組であらわすことができた。正方形の誕生だ。」

長男「ふふん。」

私「正方形ができたから、こんどはちょっとだけ円をやってみよう。あなたは円の定義を知ってる?」

長男「円の定義? うーんとね。まるいんだよ。」

私「丸い、だけだと楕円も丸いよね。」

長男「そうか…。中心からコンパスでくるっと描けばいいんだけどな。」

私「OK。始まりはこんなふうだ「ある点から…」」

長男「ある点から…半径のところにある点の…」

私「点の何?」

長男「…点の集合。」

私「いいねえ! 円の定義は「ある点から一定の距離にある点の集合」だね(注意:平面上という前提が必要)。図形は点の集合だから、図形の定義はたいてい「…点の集合」という言葉で終わる。ところでこの「ある点」って何のこと?」

長男「中心。」

私「そうだね。「一定の距離」っていうのは?」

長男「半径。」

私「その通り。半径の長さだね。いま、xとyの組を使って円を描くには、「点と点の距離」というものをxとyであらわす必要がある。でも今日はもうくたびれたから、その話はやめよう。」

長男「えー、やめるのー。」

私「さわりだけちょっと話すと…ピタゴラスの定理が出てきます。」

長男「ふうん。」

私「ところで、さっきの円の定義「ある点から一定の距離にある点の集合」は円周をあらわしているわけだけれど、円の内部も含めた「円盤」はどう定義できるだろう。」

長男「円周の中の方。」

私「始まりはこんな風だ。「ある点から…」」

長男「ある点から…わかんない。」

私「「ある点から一定の距離以下にある点の集合」だね。」

長男「一定の距離以下? …あああ、そうか!」

私「もしも「ある点から一定の距離未満にある点の集合」だったらどうなるかな。」

長男「はじっこがない。」

私「そうそう。円盤から円周を除いた、円の内部だけだね。ちょうど、耳を食べちゃったパンみたいな図形だ。」

長男「あはは。」

(2003年12月23日の日記から)

豊かな人生のための四つの法則