比喩のお話

結城浩

それでは今日は比喩のお話をしましょう。

読みやすく、分かりやすい文章には比喩やたとえ話が欠かせません。 抽象的で理解しにくい内容でも、 適切な比喩があれば、 読者はすっきりと理解できます。

しかし、適切な比喩を見つけるのは難しいものです。 「例えば」と言えばいいというものではありません。 適切な比喩を使うには以下のような注意が必要です。

読者が理解しやすい内容であること。 説明したい内容よりも難しい比喩を使ってはいけません。 また、読者がよく知らない分野からたとえ話を引いてきてはいけません。 「読者のことを考える」という大原則を忘れてはいけません。 農夫に話すときには種まきにたとえ、 漁師に説明するなら魚とりにたとえるのはよいことです。

説明したい内容との対応がきちんとつくこと。 説明したい内容と対応がうまくつかない比喩は、 理解の妨げになります。 「C言語のポインタはサボテンのようなもの。 うまく扱わないと怪我をする」というのは貧しい比喩です。

比喩はあくまで理解の助けとするものであって、 100%の完全な対応を望むのはやりすぎであること。 説明したい内容と対応がつく方が望ましいのですが、 それはあくまで構造上の対応、大きな枠組みでの対応で構いません。 ディテールまで無理に対応をつけるとかえって害をなす場合もあります。

比喩の「トーン」に注意すること。 たとえ構造上の対応がうまくつく比喩を見つけても、 読者に不快感を抱かせるもの、 読者の注意が比喩の方にそれてしまうようなものは不適切です。

必要に応じて比喩を離れて、より正確な理解を読者にうながすこと。 導入部分で比喩を使うのは適切です。 しかし専門的な知識の習得や、 より正確な理解のためには比喩が害をなす場合もあります。 比喩によって読者が概要をつかんだ後は、 数式を使うなど、 よりフォーマルな解説への移行が必要な場合があります。

よい比喩を見つけるにはどうしたらよいのでしょうか。 いつも心を広く持ち、目を開き、耳をすましましょう。 物事の構造や仕組みに関心を持ちましょう。 「これは何に似ているだろうか。どこが似ているだろうか。どこが違うだろうか」 と考える習慣をつけましょう。 さまざまな事象について、 自分の理解を深めることは大切です。 しかし「読者は、何をどのように理解しているか」 に思いを寄せることも大切です。

思いつくままお話してきましたが、 基本原則はたった一つですね。 「読者のことを考えよ」 これに尽きます。 すべてはこの原則を展開しているだけの話です。

文章を書くなら「読者のことを考えよ」。 講演をするなら「聴衆のことを考えよ」。 話をするなら「聞き手のことを考えよ」。 教えるなら「生徒のことを考えよ」。 製品を作るなら「利用者のことを考えよ」。 営業をするなら「顧客のことを考えよ」。 いつも「相手のことを考えよ」。 …いくらでも応用ができそうですね。

「相手のことを考えよ」 ―― これはまた「愛」の原則でもあるのです。

(2001年12月12日の日記から)

豊かな人生のための四つの法則