ノックを待ちながら

Waiting for the Knock

リチャード・ストールマン

(訳者: 訳していない部分があるが、時間がなかなかとれないので暫定公開。 誰か訳して(他力本願)。 )

想像してください。 あなたは、ドアがノックされるのを恐れています。

想像してください。 そのノックは警察のもので、警察はあなたを秘密裏に尋問するためにやって来るのです。 想像してください。 その警察は、 ファイルの暗号を解けとあなたに命じることができ、 暗号の鍵を教えよと求めることができ、 しかも、その目的があなたに不利になる証拠を得るためでもかまいません。 結局、警察は自分に不利な証言をあなたに強制できることになり、 それを拒否することは法律に反する罪となるのです。

想像してください。 あなたは自分の無罪を証明できない限り、 事実上有罪であると見なされます。 要求に応じなかったというだけで法律に反する罪となります。 もしもあなたが、警察の求める暗号鍵を持っていなかったら、 持っていないということを証明できない限り、刑務所入りとなるのです。

想像してください。 その警察は思うままに行動できます。 なぜなら、彼らの行動は秘密だからです。 警察があなたの証言を求めるのに、裁判所の認証は不要です。 そしてもしもあなたが誰かに――友人や仲間に、 ニュースレポーターに、ほとんどの状況では公開された法廷に対してですら――強制的に証言させられた、 と言ったなら、あなたは単にそう言ったことだけで刑務所入りとなります。

想像してください。 これらの行動に対する司法的な規制は特殊な秘密裁判だけであり、 陪審員もなく、 検察当局に賛意を示す裁判官によって判決がなされます。 想像してください。 裁判官は検察官から秘密裏に証言を聞くことができ、 あなたはその証言を否定することすらできません。

不幸なことに、想像力は必要ありません。 これは現実の提案です――中国やイラクの話だろうとあなたは思うかもしれませんが、 英本国(Britain)の話なのです。 これは 電子通信法案(Electronic Communications bill)の草稿の一部として提案されましたが、 そこから取り下げられました。 おそらく、独立した「捜査権限の制限(Regulation of Investigatory Powers)」法案としてまもなく再提案されるでしょう。 (政府の権力を広げるような提案は、 反対の意味合いを持つ名前の法案の中に隠されることが多いものです。) 市民権、政府権力の乱用防止、黙秘権、自己に不利な証言の強制禁止という概念を世界に対して示した国が、 その概念を破り捨ててしまおうとしているのです。

英国の法制度の腐敗は、先の保守政権の元で始まりました。 その政権は、 ――ある種の犯罪に関して―― 質問に答えることを拒否した人に対して適用できる 「反テロリスト」法("anti-terrorist" law)を成立させました。 このようにして、黙秘する権利に対する最初の一石が投じられたのです。

この法律の乱用を避けるために、 この法律は、裁判所が黙秘のみを根拠として有罪宣告をしてはならない、 と述べています。 有罪宣告のためには、裁判所は他の根拠がなければなりません。 (訳者: 次の1文、意味が取れませんでした。 ) But the same law established that an official accusation of membership in a prohibited organization can also be held against you. これもまた、それ自身としては十分ではありません――有罪判決のためにはこの両方が必要なのです。 法律上禁じられている組織に属しているとして告発され、 しかも警察の質問に答えることを拒否したならば、 刑務所に行かねばなりません。

もちろん、法律というものはおしなべて、 「火急を要する」正当な理由があれば市民の権利をおかすものです。 この法律に関して言えば、その正当な理由というのはIRAのテロリズムです。 しかし、この治療法というのは病気よりもはるかにたちの悪いものです。 今から1世紀の後には、IRAの爆弾は単なる歴史の一章に過ぎなくなるでしょうが、 しかし、その時でもまだ「治療」の痛い効果は感じられることでしょう。

保守政権に代わって登場したブレア首相の「New Labor」政権は、 この方針を熱心に他の領域まで広げようとしています。 この政権が犯罪の公判における陪審員の権利を剥奪しようと計画していると知ったときも、 私は大して驚くことはありませんでした(1999年11月20日のガーディアン紙1面を参照)。 これらの方針を知ったら、アルゼンチン人は概して喜ぶでしょう。 (訳者: 何でアルゼンチンがここで出てくるのか? )

この問題に関して英国の役人と話すと、 万人の利益のために権力を賢明に使うから、信用してくれたまえ、 と主張します。 もちろん、それはばかげています。 英国は英国法(British law)の伝統を固持し、 公正な裁判と、non-self-incriminationの、 市民の権利を重んじなければなりません。

詳細を議論しようとすると、 彼らはwith pettifoggeryで答えます。 例えば、無罪だと証明されるまでは、 あなたを実際に有罪だと見なすことはない、と彼らはうそぶきます。 (訳者: 次の文、間違っている訳。原文は、 because the official forms that demand your code keys and your silence are officially considered the proof of guilt. ) なぜなら、 あなたの暗号鍵とあなたの沈黙は公的に犯罪の証明とみなされるからです。 (訳者: 次の文も、間違っている訳。原文は、 That in practice this is indistinguishable from requiring proof of innocence requires more perspicuity than they will admit to. ) ということは、実際のところ、 無罪の証明を必要とすることと区別がつかないことになります。 彼らが認める以上の明快さを...

もしもあなたが英国に住んでいるなら、 あなたは何ができるでしょうか。

  1. 政治的な行動をいま、取ってください。 すべての政党に対して、この問題が自分にとって大きな関心事であることを伝えてください。 そして各政党に対して、投票するから、このような法律に反対してもらいたいと言いましょう。 さらなるアドバイスを得るには www.stand.org.uk を見てください。

  2. これらの法案に対して自分が確固として反対であると述べた手紙を書きなさい。 あて先は、 MPつまりe-Minister Patricia Hewitt (e.minister@dti.gov.uk)、 内務大臣、そして新聞です。

  3. インターネット・サービス・プロバイダの管理者と、 この問題の重要性について話しなさい。

  4. 暗号メールを使いはじめ、 GNUプライバシー・ガード(GNU Privacy Guard)や他の適切な暗号化プログラムを使いはじめなさい。 そして、できるだけ広範囲に、できるだけ多くの人と使うようにしなさい。 暗号を使う人が多ければ多いほど、政府は暗号を根絶することが困難になります。 GNUプライバシー・ガードはフリー・ソフトウェア(自由に再配布したり変更したりすることができます)で、 www.gnupg.orgで入手ができます。

  5. 暗号化されていたメッセージをいったん読んでしまったら、 もう保存しておく必要はありません。保存しないようにしましょう。 そのファイルを単に削除してはいけません。 他のゴミファイルを何個かそのファイルの上に1個づつコピーしなさい。 そうすれば、以前の情報を復活させることができなくなります。 (GNUプライバシー・ガードはこれを行う便利なコマンドを提供するでしょう。)

  6. もしもあなたが暗号化したメッセージを保存する必要があるなら、 ステガノグラフィ(steganography, 無害な他のメッセージ中にメッセージを埋め込んで情報を隠すこと)を使いなさい。 そうすれば、暗号化されたデータが存在するに違いないと判断することは誰にもできなくなります。 メッセージを送信するときもステガノグラフィを使うことができます。

  7. 誰でも、あなたですら、この法律の標的になる可能性があります。 自分が「犯罪者じゃない」から大丈夫、などと思ってはいけません。 ほとんどすべての人間は何かの法律を破っているものです。 しかし、もしもあなたが法律を破っていなくても、それでも疑われる可能性はあるのです。 あなたの友人や通信相手があなたの次に疑われるかもしれません。

    ですから、無害に聞こえる「コード・フレーズ」を仲間うちで今のうちに決めておきなさい。 例えば「アグネスはひどい風邪をひいた」というようなものです(でもこの文は使わないように!)。 そうすれば、秘密警察に尋問を受けたことを、警察に悟られずに仲間に知らせることができます。

何をきっかけとして、 あなたのドアまで秘密警察がやってくるのか、 わかったものではありません。 今のうちに、必要な用心をしておきましょう。 なぜなら、 ドアのノックを恐れる以上にまずいのは、 危険に気づかずにいるということなのですから。


この記事のある版は、 1999年11月25日付けのGuardian(ロンドンの新聞)で公開されました。

2000年3月の時点で、R.I.Pは英国議会で熱心に検討されています。 ちょっとした安全策が追加されました。 すなわち、鍵を出さなかったゆえに投獄するためには、 当人がかつてそれを持っていたことを政府が証明しなければならないというのです。 この準備は、この法案の擁護者である内務大臣を、 彼に読めない暗号メールを送ろうというキャンペーンから 守ることを意図しているように見えます。 この修正は少しばかりの改善ですが、 この法案は依然として民主主義国家にとってふさわしくないものです。

さらに情報を得たい場合には、 Foundation for Information Policy Research (FIPR) をあたってください。


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Copyright (C) 1999 Richard Stallman

Verbatim copying and distribution of this entire article is permitted in any medium, provided this notice is preserved.


訳者メモ

翻訳は結城浩が行ないました。 誤字・誤訳の指摘を歓迎します。

HTMLソースに原文がコメントとして含まれていますので、 ご指摘くださる際に利用してください。

プロジェクト杉田玄白正式参加テキスト。

yomoyomoさんから、この文書はすでに Richard Stallman - ノックを待ちながら (Linux Today)で翻訳が公開されているとご教示いただく。感謝します。 Linux Todayの原文は、 Richard Stallman -- Waiting for the Knock (Linux Today, 英文)にあります。こちらには読者からのコメントもついています。 (2000年1月18日)

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