ラブレター

Love Letters

結城浩

20:32
まーくん、お元気ですか。
なんてね。へっへー。

いま、仕事から帰って来たところです。
疲れたよん。

あたし、まーくんのこと、大好きです。
だあい好き。
あのね。まーくんがね、みーみって呼ぶたびに、
何だかね、ごろにゃんになります。

まーくんの言葉は、すてきにすてきで、
いつもくりかえし、まーくんの言葉を思い出して、いい気持ち。

でも、ときどき、不安になります。
まーくんはまーくんで、あたしはあたしで、
あたしたちはずっと離れてる。
どんなときもあたしはまーくんが好きだけど、
まーくんはあたしを好きかしら。

あたしって、おかしい?
ときどき、あたしは。
あたしがおかしいと思う。
眠っているときも、ふとんに穴がぽっこりあいて、
すぽんと落ちてしまうみたいな気持ちになる。

ときどき不安な、みーみより

- - -

21:05
あたしはあたしが嫌いです。あたしはあたしが大嫌い。
あたしは、まーくんが好き。まーくんがとっても好き。
どうしてか知らないけれど、
あたしはまーくんが、とってもとても大好きです。

まーくんはあたしと会うとき、
難しい話をします。おもしろくない話をします。
おもしろそうにまーくんが話すおもしろくない話を、あたしはおもしろそうに聞きます。
あたしは、まーくんの話だから聞いてるの。
あたしはまーくんが好きだから。

まーくんはあたしの話を聞いてくれます。
あたしが何を言っても、にこにこして聞いてくれます。
でもまーくんは、心の中でつまんないなと思っているかも。
でもいいや。
まーくん、ゆるしたげよう。

寛大な、みーみより

- - -

23:42
まーくんはあたしとつきあってる。
このあいだ数えたの。一年と三ヶ月と四日。
あたしはまーくんと、まーくんはあたしとつきあっている。
つきあおう、っていったことはないけれど、
あたしとまーくんはつきあっている。ぜったい、ぜったいに。

あたしはまーくんのことが好き。
ひゃくぱーせんと好き。とっても好き。好き好き大好き。
コーヒーにミルクを入れた後、指先なめるしぐさが好き。
階段ののぼりかたも好き。
最初に二歩かけあがってから、ゆっくりのぼる。でも最後はかならず三段飛ばし。
あたしは、まーくんの階段ののぼりかたが大好きです。

観察力豊かな、みーみより

- - -

00:21
このあいだのバレンタインは大失敗でした。
チョコレートにいろんなスパイスをまぜようとしたのが失敗のもと。
きみょうな味になってしまいました。
きみょうな味。とうがらしと、さとうと、こしょうを混ぜたような味。
でもまーくんは、にっこりわらってありがとうっていってくれたよね。
まーくんの笑顔に、ありがとう。
でもさすがに一口でやめたね。
まーくん、ナイス判断。

後悔先に立たずの、みーみより

- - -

01:14
あたしはもうすぐ死にそうです。
でも死にません。まーくんがいるから。まーくん、大好き。
もうすぐ報告会があります。その準備で死にそうです。
いまの上司はひどい人です。あたしのことをぼろくそにいいます。
このあいだも、夜おそくまで準備してたのに、急に後ろから肩をたたいて、
おっそい、遅いね、遅い遅いぃぃ、なんて、
へたな歌を歌いながら帰っていきました。
すっごく、くやしい。

上司は、あたしを今でも「ぼー」って呼びます。
ぼーっとしているから「ぼー」です。まあ、なんてひどい。
まーくん、まーくん、あたしのかたきをうってください。
まーくんは考えるのがくるくる早くてうらやましい。
論文書きなんてやってないで、あたしを手伝え。うりゃ。

うそです。論文書け書け。はやく書け。
そしたら、まーくんに会えるから。

なんだかくやしい、みーみより

- - -

01:45
思い出したぞ。

こないだ、あたしはきちんとした格好で行ったのに、まーくんはひどい格好でした。
ごめん、と言えばゆるされると思ってるんでしょうか。
あのレストランにジーンズはひどい。ひどい、ひどい。せっかく久しぶりに会えたのに。
まーくん、あたしはまーくんが大嫌い。
もうメールよこさないでください。

かんかん怒れる、みーみより

- - -

02:30
ごめんなさい。
まえのメールをおくってから、すぐに後悔しました。
送ったメール、取り返したかったなあ。くやしい。

インターネットのとちゅうにポストがあって、
ポストから手紙のたばを引き出して袋にがさがさ詰めている郵便屋さんに、
あたしは訴える。

すみません、すみません、
さっき、まーくんにおくったメールなんですけど。
悪いのはあたしなんです。まーくんは悪くないんです。
論文でいそがしいときにレストランにさそったあたしが悪いんです。
さっきのメール返してください。

っていえば、送ったメールを返してくれたらいいのにね。
でも、その郵便屋さんはきっといじわるなんだなあ。

そんなこといわれても、
ちょっとやそっとじゃメールを返すなんてできないねえ。
こう見えても、メールを送るっていうのはたいへんな仕事でねえ。
最近は添付ファイルも多くなったし。
こんなにたくさんのメールから、まーくんあてのメールを探せなんて、
あんたはひどいことを言うねえ。仕事が遅い「ぼー」のくせに。
そもそも、あんた、まーくんがきらいなんだろう。
どうだい、おれとつきあわないかい。

なんていわれるにきまってる。
きい、くやしい。
まーくん、どうするどうする。

ばかな話はやめます。
さっき送ったメールはあたしが悪かったです。
ごめんなさい。

まーくん、大好き。
まーくんがあたしのことを嫌いになっても、あたしはまーくんが大好きです。
あたしは、まーくんが、大好き。

大好き、大好き。

論文書き、がんばってね。
おやすみなさい。

まーくんに恋する、みーみより

(2003年3月14日)