こどもとおとなのあいだにいるあなたへ

結城浩

どっちに進んでもいい、というけれど、
でも、でも、どっちに進めばいいの?

今、私には何もできない。
私よりすごい人はたくさんいるみたいだ。
あたりを見回してみると、
みんなしっかりした自分を持っているみたいだ。
あたりを見回してみると、
みんなこだわりを持って、目標を持って努力しているみたいだ。

どうして私だけ、こうなんだろう。
私はいつもそうだ。
チャンスは生かせないし、そのくせ努力をするわけでもない。
そのときどきの流行りものに心奪われるけれど、
実は私の中はとっても不安でいっぱいだ。
ああ、私っていったい誰?
私は何をすればいいの?

私は「わたしだ」っていいたいのに。
世界に私を示したいのに。
実際にはたった一人にすら私を伝えられない。

私をみてよ。本当の私をみてよ。

私は…私の作り上げた私をみているのだろうか。
まやかしの私を。

でも、これが私。
これが、今の私だ。
私はここからはじめよう。
私は今からはじめよう。
私は、けっこう情けない。
そのことは、いやというほどわかってる。
今は、何もできない。
でも、したいことはある。
将来、ずっとそれがつづくかどうかはわからないけれど、
今は、これを頑張ってみたい。

そうだ、これが、今の私なのだ。

私はもう、日常を恐れない。
米をとぎ、ていねいに炊く。
昨日と同じ今日を恐れない。
きゅうりのつけものを切る。
当たり前のことを言ってもいいじゃないか。
きちんと お味噌汁を作る。
平凡に見えることにもおびえない。
そっと箸をそろえる。
不安や劣等感にもつぶれない。
たとえ私がひとりでも。
たとえ今はひとりでも。
いただきます、と言って食べよう。

そうだ、これが、今の私なのだ。

(1998年2月24日)