仕事のトラブル・ケーススタディ

「仕事の心がけ」2

結城浩

「AをBに変えてください」という依頼がやってきた。

そこから生まれる仕事のトラブル。

いったいどうすればよかったのか、あなたも考えてみましょう。

目次


はじめに

仕事にはトラブルがつきものです。 このページでは、たった一つの例題を通して、 どんなトラブルが起こるのか、 それはなぜ起こるのか、 どうしたら回避できるのかを ご一緒に考えてみましょう。


例題

まずはじめに「例題」を説明します。

あなたが仕事をしているとします。 そのときだれかから、

「AをBに変えてください」

という依頼を受けた…これが例題です。

依頼をしたのが誰か、Aとは何か、Bとは何かはあなたの想像におまかせしましょう。 業種や職種によってその内容は変化します。 依頼をするのは上司かもしれないし、顧客かもしれないし、部下かもしれない。 AやBはプログラムかもしれないし、幕の内弁当かもしれないし、旅行用のチケットかもしれない。

ともかくあなたは、「AをBに変えてほしい」という依頼を受けたのです。

どんなトラブルが起こりうるのか、少し考えてみましょう。


ケーススタディ1:なぜ?

起こったこと

「AをBに変えてください」という依頼を受けた私は、 いろいろ調査を行った。 すると、AをBに変えることは簡単だが、 将来のことを考えると、AをBに変えるよりも、AをCに変えた方がずっとよいことがわかった。しかしAをCに変えるのは結構時間がかかる。 そこでかなり無理をしてAをCに変えた。

ところが…実際のところ、「AをBに変えてください」という依頼は、 すでに9個できていたBとあわせて10個のBを作ることが本当の目的だったのだ。 確かに将来的にはCの方が有用なのだが、当座の必要を満たすのはCではなくBだったのである。

依頼した人はBを依頼したのにCができてきたので怒り出した。 私はかなり無理をしてCを作ったのにそれが無駄になってがっかりした。

どうすればよかったのだろう

私が調査して「AをCに変えた方がずっとよい」ということを知ったのはけっこうなこと。 しかし問題だったのは、 「AをBに変えるのではなくCに変える」という判断を自分勝手に行ったことだ。 実作業にかかる前に、そこで依頼者に一言確認すればよかったのだ。

それからもう一つ。

「AをBに変えてください」という依頼の理由を少し聞いてもよかったかもしれない。 「Bに変えたいというのは、すでに9個できてるBとあわせて10個のBを作るのが当座の目的なのだ」 といった情報を依頼者から引き出せれば、今回のトラブルは防げたかもしれない。 そうすれば、ずっと少ない労力で、依頼者も私も満足できたかもしれない。


ケーススタディ2:いつまで?

起こったこと

「AをBに変えてください」という依頼を受けた私は、 さっそく作業にかかった。 仕事が半分ほどすんだところで、依頼者から電話がかかってきた。

「Bは明日使うんだけれど、できているかな?」

私はびっくりした。まだ半分しかできていないからだ。 まだ半分しかできていない旨を伝えると、 依頼者は電話口で激怒した。 実際、明日までBができていないなら、 Bを作る意味はまったくないとのこと。

依頼した人はまったく利益をあげることができなかった。 半分までBを作った私の時間はまったくの無駄になった。

どうすればよかったのだろう

依頼を受けたとき、〆切(納期)を確認すべきだったのだ。 しかもその〆切の重要度もあわせて。 仕事にはかならず〆切がある。 厳しい〆切も、ゆるやかな〆切の違いはあるけれど、必ず〆切がある。

一日二日遅れてもかまわない〆切もあるけれど、 この時点より一秒でも遅れられない〆切もある。 少しでも遅れるならやらない方がいい、という仕事はたくさんある。

もちろん、〆切や納期をはっきり言わない依頼者はたくさんある。 そういう依頼者をなじったり怒ったりしてもいいけれど、 それはさておき、自分の側としてはトラブルを回避しなければならない。 だから、自分から聞くべきなのだ。

「この仕事はいつまでにやればいいですか?」

と。


ケーススタディ3:優先順位の判断は誰がするのか?

起こったこと

「AをBに変えてください」という依頼を受けた私は、 現在、別の人から依頼されていた「CをDに変える」という作業を行っていた。 しかしAをBに変えるという作業がおもしろそうだったので、 そちらの方を集中して行った。 その結果、AをBに変える作業はうまくいった。 ところがCをDに変える作業は〆切を二日ほどオーバーした。

しかたがないなあ、と思っていると、 AをBに変えるように依頼した人から苦情がやってきた。 話を聞くと、私がやるべきだったCをDに変えるという作業の方が会社全体としては重要な仕事だったらしい。 その遅れのため、大きな仕事を受注できなくなってしまったとのこと。 「CをDに変える仕事がとまるくらいだったら、  AをBに変える仕事はしなくてもよかったのに」と怒られた。 〆切通りに仕事をしたのに、結局不満足な結果に終ってしまった。

どうすればよかったのだろう

仕事の優先順位の確認が必要だったのだ。

  • 「AをBに変えてください」という依頼
  • 「CをDに変えてください」という依頼

この二つを両立させるのが難しい、ということはよくある。 頑張ればできる場合もあるが、できないことも多い。 その優先順位は誰が判断するのか?

自分で判断すべきこともあるし、したほうがいい場合もある。 自分で判断した上で、誰かに承認してもらう場合もある。 承認はいらないけれど、報告した方がいい場合もある。 報告はしなくてもいいけれど、ほのめかしておいた方がいい場合もある。

人はそれぞれいろんな思惑で動いている。 仕事はたいてい複数人で行うのだから、 その思惑が大きくずれないように心がけよう。


ケーススタディ4:結果は誰に連絡するのか?

起こったこと

「AをBに変えてください」という依頼を受けた私は、 作業を着々とすすめ、無事に仕事を完了した。 そして依頼者にメールで「できました」と報告をした。

一週間ほどすぎてから、全然別の部署の人から「いったいいつになったらBはできるのか?」とクレームがやってきた。

話が見えないので、詳しく説明をもとめると、 どうやら、元の依頼者が特にBを必要としているわけではなく、 真の依頼者の仲介をしてやっただけらしい。 メールで「できました」と伝えた結果はその真の依頼者には伝わっておらず、 できあがったBは、一週間ほど誰の役にも立たず放置されていた。

どうすればよかったのだろう

もちろん、非は連絡をしなかった元の依頼者にあるわけだが、 もしこういうことが度重なるようなら、対策をこうじた方がよいだろう。

  • 「結果は誰に連絡するのがいいですか?」
  • 「真の依頼者は誰ですか?」

などを確認し、さらに、完成後、真の依頼者が満足しているかどうか、 裏でチェックしておくのである。

さもないと、思わぬところであなたの評判が落ちているかもしれないから。


まとめ

ここまで書いたら、あなたも自分自身でケーススタディを作ることができるでしょう。 あなた自身にふりかかるトラブルのケーススタディを作り、 それに「現実的な」解決策を考えておくのはとてもよいことです。

え、まとめろって?

そうですねえ。

仕事にはトラブルがつきもの。コミュニケーション不足がたいていの原因だ。

…くらいでよろしいでしょうか。


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更新履歴

  • 2018年3月18日、レスポンシブデザインに変更。
  • 2002年7月17日、リンクミス修正。
  • 1999年12月24日、www.hyuki.comに移動。
  • 1998年8月24日、公開。

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