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このページは、 私がプログラミング言語関連の書籍を執筆するときに行っている 「オンラインレビュー」について簡単にまとめたものです。 あくまで私の個人的な執筆経験を元にして書いているものですので、 必ずしも書籍を執筆するすべての人に適用できるとは限りません。
しかし、インターネットと電子メールを活用した 書籍執筆の1つのあり方が浮かび上がっているようにも思います。
補足:
読者の方から、 このページが誰に対して書かれたものかはっきりしない、 表現も不適切な部分がある、 というご指摘をいただきました。 そのご指摘を受け、時間がとれたところで、 このページは大幅改訂したいと思っています。 ご指摘を感謝します。
私は、プログラミング言語関連の書籍を何冊か執筆・出版しています。 最近は執筆を行う際に、 インターネットを活用した書籍の「オンラインレビュー」というものを同時に行っています。
ここで、オンラインレビューとは、 次のようなものを指しています。
結城が実際にオンラインレビューを行った書籍は以下のものです。
私は、オンラインレビューはオンラインチュートリアルではない、と考えています。 著者がレビューアに何かの知識を伝えることが主眼にあるのではなく、 著者が書いた文章やプログラムを「よりよいものにする」というのが目的となっています。
私は、オンラインレビューは共同執筆ではない、と考えています。 つまり著者とレビューアが一緒にゼロから何かを作り上げるのではありません。 あくまで書くのは著者であり、レビューアは基本的には意見を述べるだけです。
私は、オンラインレビューはメーリングリストやフォーラムではない、と考えています。 著者とレビューアの話し合いで本の内容が決まったり、 多数決で何かを決めたりするのではありません。 レビューアの意見は大いに参考にしつつ、 著者が、本の内容に関する全ての決定を行い、全ての責任を負うのです。
たくさんの目玉によるレビューの重要性は、 エリック・レイモンドの「伽藍とバザール」に登場します。 そして確かに文章においてもバザール方式は有効です。 しかし、私がイメージしているオンラインレビューは、 バザール方式と似ているけれども、すこし違います。
似ているところ
似ていないところ
私が行っているオンラインレビューの流れを時間順で見ていきましょう。
レビューアがレビューを行うためには、 筆者が文章を書かなければなりません。 それがなければいくらレビューアが集まっても何の意味もありません。
私の場合には、 自分で「今度はこういう本を書こう」という企画を考え、 それを編集者に伝え、出版できそうな感触がつかめたところで執筆します。 だいたいの執筆ができ(少なくとも骨組みができ)、 ほぼ完成原稿を章単位で発送できる準備ができるところまでを準備段階と考えています。
私はレビューアを以下のメディアを使って募集します。
募集要項は1つのWebページにまとめておき、 レビューアの募集ではそのWebページのURLを紹介するようにします。 こうすることで、レビューの主旨や要項が過不足なく読者に伝わります。
レビューの主旨はレビューア募集の段階でよく練っておきます。 互いの権利関係、互いがやること、報酬の有無、参加料金の有無、 (可能なら)期間、レビューアに求めている技能など、できるだけ具体的に示すほうが、 著者にとってもレビューアにとってもよいでしょう。
レビューアが集まり、レビューア募集を〆切った後で、 レビューア相手に「はじめのあいさつ」を送ります。 レビューアは「これから楽しみ」という期待と「自分にもできるのかな」という不安の両方を持っていますので、 その気持ちを汲み、その気持ちに応えるような文章を送ります。 そしてそれと共に、事務的な連絡や注意事項を送ります。
レビューアに「わくわくする感じを伝える」ようにすることは大事です (それ以前に、著者がわくわくしていなければなりませんが)。 せっかくオンラインレビューを行うのだから、 あまり「仕事っぽく」「義務っぽく」しないようにします。
…そのような感覚ではじめのあいさつを送りましょう。
私はレビューアへ原稿を章の単位で送信します。
1つの章を書き上げ、校正した段階で送ります。 これによってその章に「ひと区切り」をつける気持ちもあります。
送信するメールの形式(例えば以下のもの)は統一するのがよいでしょう。
レビューアへのメール送信には、 メールのBCC機能を使うか、 メーリングリストあるいはメールマガジン発行サイトを使うのがよいでしょう。 レビューア全員をTOやCCで送ってしまうと、 レビューア全員に互いのメールアドレスが開示されてしまうので、 レビューアの個人情報保護の意味で好ましくありません。
レビューアからの報告は丁寧に読みます。 基本的に、1つ1つの報告に「感謝」して読むことが大切です。 レビューアははじめのうちは熱心にレビューしてくれますが、 最初の興奮やものめずらしさが薄れると、だんだんレビューがおっくうになってくるものです。 その中で送ってくれているメールは1つ1つ感謝して読むようにします。
レビューアからの報告は、こちらから送ったメールに対する「返信」の 形でやってもらうようにします。 するとメールの表題によって分類することが楽になるからです。
レビューアの報告には可能な限り返信するようにしています。 そのときには、 お世辞や心にもない誉め言葉は書かないようにします。 しかしレビューしてもらって「感謝」しているのだ、 という気持ちは常にはっきり全面に出します。
それから、 レビューアの一言一言が直接的・間接的に役に立っている、 ということも折に触れて強調します。
自分が感謝していることをきちんと言葉の形にして レビューアに送ることは互いにとって有益です。
結城は「名前を公開する」ということをとても大切な(重大な)ことだと考えています。 貢献していただいたレビューアの名前は書籍の冒頭の謝辞に掲げますが、 名前を公開することに関してはレビューアの許可を得るようにしています。 具体的には「あなたの名前を公開してよいか。公開するならどのような表記がよいか」というメールをレビューアに送ります。
確認をとるのは、プライバシー上、あるいは仕事の関係上名前を公開されたら困るという人が少なからずいるからです。
結城は、以下のような方針としています。
すべての章をレビューアに送り、 レビューアからの返信もほぼ尽き、 書籍原稿への反映もすんだところで、 レビューは一区切りとなります。 参加してもらったことに感謝し、これまでの苦労をねぎらい、今後の応援をお願いしつつ 最後のあいさつをレビューアに送ります。
次回のレビューにもぜひ参加してもらいたい旨も伝えます。
結城は、レビューアへの原稿送付は基本的にメールを使いますが、 バックナンバー(過去の原稿)の読み直しがしやすいように、 レビューア専用のWebページを作っています。
送信したすべてのメールをレビューア専用ページで、ブラウザを使って読めるようにします。 これでレビューアは、自分あてにすべてのメールが来ているかを確認することも可能になります。
出版前の大事な原稿ですので、 専用ページは基本認証で守り、一般のページとは区別しています。
結城がレビューアに求めることは、深い知識ではありません (主に入門書を書いているからかもしれません)。 レビューアに求めるものは、知識ではなく、 「感じたことをそのまま表現して返してくれること」です。
レビューアのは、結城の原稿の「最初の読者」です。 送られてきた原稿を読んでいくうちに、 レビューアの心の中にはいろんなことが浮かぶはずです。
結城が求めるのは、レビューアのそのような生の声です。 レビューアが感じたこと、考えたこと、やってみたことを 結城あてにそっくり届けていただくのが、 とても大きな助けとなるのです。
技術的な誤りを探すだけが、レビューの目的ではありません。 レビューアのが読んで感じたことを、 気軽に、そのまま届けてもらいたいと思っています。
という気持ちでメールを出すのをためらったりせずに、 思い切ってその気持ちも丸ごと送信してほしいと思っています。 結城がレビューアに期待するのは、単にレビューアの知識だけではありません。 文章そのもの、表現、比喩、ジョーク、言い回し、難易度、全体のトーン… それら全体に対して、レビューアが感じることを伝えてほしいのです。
繰り返しになりますが、結城は、 「読んだ方が何を感じるか」を知りたいのであって、 改善案が必ずしもほしいわけではありません。 単純に「ここがわかりやすい」「うん、わかったよ」 「何てすばらしい素敵な文章なんだ。ワンダフルだ。感動で涙が出てきた」 などという意見も「辛口」意見に勝らずとも劣らない価値があります (最後のは冗談です)。
レビューアは著者の考えで型にはめないほうがよいです。 レビューアを自分の完全なコントロールのもとにおこうとしない方がよいのです。 著者の考えをできるだけはっきりレビューアに伝えた後は、 レビューアに「はい、あとはあなたのご自由に、あなたのペースでどうぞ」とまかせるようにしています。
レビューアにはできるだけ「フリー」な気持ちでいてもらい(つまりは本物の本を読むときの気持ちになってもらい)、 何を感じるか、何を思うか、をできるだけそのまま語ってもらうのがよいと思います。 これは、バグ報告とも共通する部分がある。 オペレータが勝手に現象を解釈するのではなく、 起きたことをverbatimに送り返してもらったほうが役に立ちます。 それと似ています。 レビューアが感じたことをできるだけ生の形で著者に送り返してもらうと、とても有益なのです。
レビューアからの返信は、 それぞれのレビューアごとにトーンやスタンスが違っていることがわかります。 そのバリエーションが、文章に対する違う視点を提供してくれることになるのです。
著者はバリエーション豊かなレビューを受け取り、 それを「自分」というフィルタを通して書籍に反映させます。 レビューアから、まったく正反対の意見がやってくる場合があります。 例えば、同じ個所をある人は「わかりやすい」と言い、 別の人は「わかりにくい」と言うこともあります。 このような状態では、 レビューアの返信をそのまま機械的に文章に反映させるのはできません。 だから、著者は、レビューアからの返信を、すべて感謝しつつ、 しかし取捨選択して反映させる必要があります。 何を取り、何を捨てるかの判断を著者がやることで、 その著者らしさ、オリジナリティが自然に出てくると考えています。
Perl Developer's Dictionary という書籍の著者も、インターネットでレビューアを公募して、オンラインレビューを行っています。 しかし、結城とは方針が少し違います。
『伽藍とバザール』の中には、 たくさんの「教訓」が登場します。 オンラインレビューの観点からこの教訓を読んでみることにします。
私もそうだ。 私が書く本は、たいてい、 私がこれまで知らなくて、新しく学んだことについての本だ。
私はすごい書き手、ではないけれど (すごい書き手になりたいとは願っているけれど)、 ベースにすべきものを見分ける嗅覚はどこかにあるみたい。 私はまったく新しい何かを創造した本を書くというよりは、 何かすばらしいこと(だけれども難解さのために敬遠されがちなこと)を わかりやすく書くのが好きみたい。
これはまだよく分かっていないかもしれない。 でも、本を書いていて、 一章を完成させてからそれをまるまる捨てることはままあるなあ。
これは言えるかも知れない。 それぞれの本を書くきっかけというのは「出会い」のような感じがする。 自分から計画して何かを書き始めるというのは意外に少ない。
これはまだよく分かっていない。 この点、本とソフトは少し違っているかもしれないね。
専門家、ではなくその本の読者にレビューアになってもらうと、文章の質を上げるのに効果的。
レビューアにはひんぱんにコンタクトを取る。 そして(評論家としてのレビューアの声よりも) 読者としてのレビューアの声に耳を傾ける。
これはまだあまりできていないなあ。 レビューアの人数を多くすることに対しては少し懐疑的。
レビューアに原稿を送る前に、 それがどんな読者を対象としている本なのかをきちんと知らせ、 目次などの全体構成を明らかにした方がいい。
レビューアは本当に貴重な存在だ。 でも、「資源」というのはコンピュータ屋さんには自然なメタファーだが、 人間に使うのは不適切だ。 レビューアは生きた人間として接するべきだ。一人一人を「スペシャルな存在」として丁重に迎えること。
レビューアからのメールに隠されている「いいアイディア」を見出す能力はとても大事だ。
その通り。 文章を書き始めのころはよくわかっていなかった問題が、 書き終えるころにおぼろげながら姿をあらわして衝撃を受けることはままある。
そう。私も文章を「書きすぎる」傾向がある。 いつも、もっとスリムにしようと思っているのだが、つい厚い本になってしまう。
書いている本の(著者が気が付かなかった)役割をレビューアが見出してくれるときもある。 「この本は○○を学ぶだけではなくて、△△を学ぶ役にもたちますね」という具合に。
(話のレベルがずれるけれど)レビューアの自然な感想、率直な意見が自分に届くように細心の注意を払うこと。
(話は少しずれるけれど) レビューアの意見を闇雲に取り入れちゃ駄目だ。 必ず自分のフィルタをきちんと通すこと。
(話は少しずれるけれど) 送付するテキストをがちがちに守ってもあまり意味がない。 少しくらいリークがあっても気にしない、気にしない。
最初に戻ったね。 私も、自分にとって「おもしろい」本を書きたいと常に思っている。
そのようだ、が、 私がまだできないでいるのは、レビューアの数を非常に増やすことなんだ。
『伽藍とバザール』の中には、 バザール方式の前提条件が登場します。 オンラインレビューと比較してみましょう。
その通り。 オンラインレビューが共同執筆ではない、というのはそういうことだ。
その通り。 私の場合には「これまで本を完成させてきた」という事実が「見込みを示す」行為になっているだろう。 もともと、書き上げられそうなめどがついてからでなければ、 レビューアを募集するのはこわくてできない。
何回か実際にオンラインレビューをやってみて、 私はこれが得意だということがわかった。 というか、こういうのが好きみたい。
私はリーダーシップはあまりないほうなのだが(いや、本当に)、 メールベースでのコミュニケーションは好きだし、 それなりに能力はあるみたい。 ホームページの運営で鍛えられた部分もあるかもしれないけれど。
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