レビューアに感謝しつつ

結城浩

2002年11月13日

2002年11月13日 (水) - レビューア募集開始

現在、結城は『暗号とセキュリティ入門』(仮題)という書籍を執筆中です。 つきましては、恒例のレビューア募集を行いたいと思います。 結城が書いた原稿を「レビュー」するという形で、ぜひあなたのお力をお貸しください。 書籍が実際に世の中に生まれ出るプロセスに、リアルタイムで参加してみませんか。

あなたが暗号、公開鍵アルゴリズム、デジタル署名、PGPやSSL、セキュリティ全般、 それに技術書の執筆に興味があるなら、 レビューに参加するのは、きっと面白く、 かつ有益な体験になると思います(プログラマである必要はありません。サイエンス書に関心があるかたも、ぜひ)。 過去のレビュー参加者からも「楽しい体験だった」とのフィードバックを多数いただいています。

過去の「レビュー」に関して、 以前参加してくださったレビューアのみなさんにアンケートを行いました。 以下をお読みくださればレビューの雰囲気がわかると思います。

結城の「オンラインレビュー」に対して考えていることは以下にざっとまとめてあります。

あ、そうだ、この機会に書いておきたいことがあります。

ネットでボランティアのレビューアの募集をすると、 「レビューアに報酬を支払わないのはけしからん」という主旨のメールをいただくことがあります。 これまでに複数の方からいただいた経験があります。 反応を返してくださることは感謝なのですが、 毎回お返事を書くのも大変なので前もってここにお返事を書いておこうと思います。

確かにレビューアの貢献してくださる内容を考えると、 報酬を支払う価値は十分あるように思います。 ただし、お金がからむとややこしい問題が非常に多く生まれてしまうのも事実なのです。

まず、お金が絡むと双方に責任だの義務だのが生じます。 そうすると、どうしてもやりにくくなりますし、 何よりレビューアが「気軽に参加」「気軽にやめる」というわけにはいかなくなります。 私はそれを避けたいと思っています。 「無償で参加し、気軽にやめてもうるさいことは言われない」という状況で、 レビューアさんに参加してもらいたいのです。

(実際のところ、前回のレビューでは、レビュー開始時にレビューアさんは約80人いましたが、 最後のアンケートに返信くださった方は約40人。 だいたい半減しています)

また、レビューアは複数人いるわけで、 しかも各レビューアが返してくださるレビューは量も質も非常にバラエティに富んでいるのです。 その状況で、お金を払うためにはレビューアを私が「比較」したり「評価」したりする必要が生じてしまいます。 でもそれは私にかかる負荷が非常に大きくなってしまいます。 毎回返信してくださるレビューアはもちろん貴重ですが、 全レビューを通じて一回しか返事をくれないレビューアであっても、 その一回が「私にとって」重要な意味を持つ場合もあります。 それを評価するのは難しいことです。 かといって、一律に報酬を定めるのはあまりにも不適切です。 なので、私は「無償による協力」という条件を最初から受けてくださる方にのみ参加していただいているのです。

質の向上のためには、正しく報酬を支払って専門のレビューアを頼むべきだ、 という考え方もありますが、それは結城が公募しているレビューとは違う次元の話です。

確かにレビューアさんからのレビューによって、 結城は無償で自分の作品の品質を上げられるわけですが、 逆に考えればレビューアさんも無償で書籍一冊分の情報を得られることになるわけです。 互いに無料で"as is"の関係でいきましょう、ということです。

ともあれ、レビューへの参加をよろしくお願いいたします。

2002年11月14日 (木) - レビューアさんからの反応

ぞくぞくとレビューア申し込みのメールが来て、何だかとってもしあわせです。 以前レビューをしたことがあるかたも、はじめての方もいらっしゃいます。 みなさんそれぞれ応援メッセージを書いてくださっているので、 それを読むのも、とても励ましになっています。 感謝します。

私にとって、自著をレビューしてもらうというのは、 気持ちがひきしまるような、それと同時にわくわくするような、 なんともいえない感覚を引き起こすイベントです。 がんばって、祈りつつ、よい仕事にしていきたいと思っています。

ところで、 過去のレビューアさんから以下のようなメッセージをいただいています。 レビューに参加して…

  • 自分自身への大きな刺激材料になった
  • 新しいことを学ぶ気持ちが起こってきた
  • 資格試験にチャレンジしてみた
  • 会社の枠を越えて、自分の活動の場を広げるきっかけになった

どうも、結城の本のレビューに参加した方の中には、 「何か」のきっかけをつかんだ方が結構いらっしゃるようです。 少しでもお役に立てたのなら、とてもうれしいです。

それから、複数人の人から 「前回はレビューアの申し込みをしそびれて、後ですごく後悔した」 というメールもいただいています。

いかがでしょうか。あなたも、ぜひご参加ください。

2002年11月14日 (木) - レビューアがいると「やる気」が出てくる

祈ってから仕事。

はじめの章を書いている。

レビューアの募集を始めてから、妙に自分の中で「やる気」がアップしてくるのがわかる。 レビューア募集の〆切までにできるだけ書き進めておきたいな、 という気持ちが沸いてくる。 自分が書いている文章を「読む人」を意識し始めるからかもしれない。 うん、何だか、とっても楽しい。 こういう感覚って、何度も感じているはずなんだけれど忘れるなあ。

自分が書く文章を誰かが読んでくれる、という感覚は書き手にとって大きな励ましだ。 最近WebLogの話をあちこちで読むけれど、WebLogの楽しさの一部もそこにあるのだろう。 自分が書いたものにリアルタイムの反応がある楽しさ。 もっとも、それはコミュニケーションを重視しているWeb日記の楽しさと同質だ。

ただし。その「楽しさ」「わくわく」を、 自分にとっての何かに結びつけていかないと尻すぼみになる。 「何か」に結実できないと、 いつか飽きてしまうんだろうな。 もちろん、その「何か」は人によって違うだろうけれど。

花があるうちに実のことを考えていないと、 花が枯れてしまった後には何も残らない。

この世に生きているうちに天国のことを考えていないと、 この世の命が尽きるときに歯噛みすることになる。

自戒を込めて、そう思う。

2002年11月14日 (木) - レビューア募集は続く

「知り合い/上司/同僚/先輩から『申し込んでみたら』と勧められて」という方が多くて興味深いです。 もしも、あなたのお知り合いにこういうレビューに興味がありそうだと思う人が いらっしゃいましたら、ぜひお伝えください。

2002年11月15日 (金) - メールマガジンで紹介

結城のメールマガジンでレビューア募集をアナウンスしたところ、 急に申し込みが増えた。 自分が運営するメディアとしてのメールマガジン。

神さまにお祈りをしてから仕事開始。

「はじめに」を書いている。 これまでもおおむね書いていたけれど、 「レビューアに見せる」ことを意識すると、ちょっと違いますね。 もっと「きっちり書こう」という気分になる。 レビューが始まる前からレビューアの存在が役に立っている、というおもしろい現象。 でもそういうことってよくある。うんうん。

「参考文献」を書いている。

レビューア専用ページで使うCGIを整備している。

テキストファイルをpLaTeXに(ひいてはPDFに)変換するPerlスクリプトを整備している。 まあこれもあとでレビューアに流そう。

これまでレビューをしたことがない方からの申し込みもうれしいけれど、 過去にレビューをしたことがある人からの申し込みもうれしい。 だって、以前のレビューが有意義だったということの表明みたいなものだから。 家内に「レビューアの申し込みがたくさん来ているよ」という話をすると、家内もうれしそうに笑う。 家内はとても素敵な笑顔をする。

私が「レビューアの中には、私よりもずっと暗号やセキュリティに詳しい人もいるんだよ」というと、 家内は「だったら、どうしてあなたが本を書くの?」と聞いてくる。 私は「こういうのは『まわりもち』だから」などと意味不明の答えをしたあと、 ちょっと考え込む。私が本を書くのはなぜだろう。 きっと、本を書くことが好きだからなのだろう。

そして「教える」ということも好き。

2002年11月17日 (日) - 一歩踏み出すためのレビュー

レビューアの申し込みメールを読むのはとても楽しい。 いつもレビューしてくださっている方々(いわば常連さんですね)もいらっしゃるし、 新しい方もいるけれど、それぞれに思いを語ってくださっている。 今回の本はプログラマ向け、というわけでもないので、 いつもとは違う傾向の人もいらっしゃるようである。 また「結城さんの仕事/執筆のやり方を参考にしたい」という方もたくさんいらっしゃる。 光栄なことです。 中には「執筆の方法を盗みたい」という方も複数人(^_^)。 ええ、盗める技法はどうぞどんどん盗んでください。

100人以上の申し込みの文章を読んでいて感じるのは、 会社の中から一歩踏み出したい、 あるいは自分の現状から一歩踏み出したいと 願っている人がとても多いということです。 一言で言えば勉強熱心、ということなのかもしれないが、 もうちょっと広く、もうちょっと深い話。 ルーチンワークではない何かに接することで、 新しい自分を見出したいという気持ち。 さまざまな機会をとらえて、 自分のスキルや経験を広げたいという気持ち。 何となく知っている知識をきちんと整理して再構成したいという気持ち。 そのような熱心な「気持ち」を、 私は申し込みの文章から感じとるのです。 今回のレビューが、 そういう方々に対して「よいきっかけ」になるようにと願っています。

さあ、今週水曜日にはレビューアの申し込みをしめきって、 いよいよレビューアへの送付がはじまる(予定)である。 楽しみ、楽しみ、わくわく、わくわく。

2002年11月25日 (月) - いよいよレビュー開始

レビューアに原稿を送信すると、 何日かしてレビュー報告が返ってくる。 まるで山のこだまのように。

レビューアからのレビューはメールとなって私に届く。 私はそれを一通一通ていねいに読む。 励ましの一言に にっこりと微笑み、 typoに頭をかき、 論理の乱れの指摘に大きくうなずく。

レビューアの指摘のうち、 原稿に反映させるべきポイントをメールからコピーして、 原稿ファイルの最後に貼り付けておく。 反映は全体のバランスを見ながらまとめて行うので、 いったんプールしておく必要があるのだ。 時間的に余裕があるときや、 返信が必要だと思われる場合にはレビューアに返信するけれど、 基本的にそれほどの余裕はない。

「こんなに細かい指摘ですみません」 と書くレビューアさんもいるけれど、 もともとレビューは細かい指摘の積み重ね。 細かい指摘には、こちらから感謝のお返事を書きたくなるほどだ。

「ずけずけと書きますが、気を悪くしないでくださいね」 と書いてくださる方もいる。 どんどんずけずけあら捜ししてください。 どんなことを書かれても気を悪くするどころか、 うれしくなるばかりですから。 レビューで気を悪くするくらいなら、 レビューアを公募なんかできませんです。はい。

さまざまなレビューアさんとの、 いろいろのやりとり。 それはとっても楽しくて、わくわくする体験。

感謝します!